「深江けやきの木小規模保育園ってどんな園?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

〈保護者〉
深江けやきの木小規模保育園の園長をしております、玉手葉月です。今日は保育園児を含む2人のお子さんのお父さんと私たちの園についてお話しできればと思います。よろしくお願いします。
保育園を決めるときに見学は必須といわれますが、ちょっと見ただけではなかなか園の考え方って伝わってこないな、と感じています。そこでこの機会に、園長に色々と話を聞いてみたいと思っています!

〈園長〉
園が小さいのは、子どもにとってどうなんですか?

保護者:お部屋がいくつもあって、2階建てだったりお庭があったりという園に比べると、ずいぶんこじんまりとしているな、という印象があるんです。
園長:そうですね。確かに小規模保育園というだけあって、園というよりは一般家庭のおうちとそう変わらない大きさですね。
ただ、2歳児までの子ども達にとって、家庭とさほど変わらない大きさの空間というのは、落ち着きやすいと感じています。人間って、自分の体の大きさとの比較で部屋の広さを把握するんです。久しぶりに小学校を訪れて教室の狭さに驚いたことってありませんか?広すぎるとかえって落ち着かないという感覚は、そうですね、例えば私たちが体育館くらいの部屋で暮らすことになったと考えてみてください。ずいぶん居心地悪く感じませんか?
新しく入園する子が来るたびに思うんですが、うちの園では落ち着いて遊べるようになるのが速い。子ども自身がどこに何があるか把握しやすい広さだから、次にする事の見通しもつきやすく、落ち着きやすいと感じています。職員の顔だってすぐに覚えられますしね。
年齢別のクラスって作れますか?



保護者:全体でも最大で15人ということですが、同じ年齢で集団を作るって難しい規模ではないですか?
園長:おっしゃる通り、〇歳児クラスというほどの規模にはならないですね。異年齢でまとまって行動することが多いです。でも、そもそも社会での集団って異年齢で出来ているもの。地域で子どもたちが育っていたころ、学校を卒業して就職したとき、近所づきあいをするとき、同年齢で集団を作ることってないでしょう。それでも不都合ってないですよね。
異年齢でいると、年長児を見て年少児がまねをする、あこがれる、年少児を「かわいいね」といってお世話する、という光景が自然に見られます。家では末っ子だけど、園では年長児としてふるまい、「ありがとう」といわれる経験を重ねるって、貴重だと思いませんか?
もちろん、0歳児で生活リズムが異なる、2歳児で複雑な遊びにじっくり取り組みたいということもありますので、別々に活動する時間を作るような配慮はしています。そんな対応ができるのも、この規模だからですね。
地域向けのイベントが多いのはなぜですか?
保護者:開園初年度に、コンサート2回・子どもと食事に関するイベント・ガレージセールと工作の会。どれも園の保護者だけでなく一般の参加もOKですね。ちょっと多くないですか?
園長:小規模保育園としては、確実に多い方だと思います。ちゃんと理由があるんですよ。
うちの園の理事たちと運営方針について話すときに良く話題になるのが「園児は地域に帰っていく」ということ。園内だけ整えて満足するな、子どもたちはもともと地域に暮らしている。地域の中に顔見知りの大人が一人でも二人でもいれば、それで防げる不幸な事故もあるだろう、仲良しの友達の家庭が幸せであればあるほど、卒園していく子どもたちの生活も幸せなものになるだろう、と。
保護者:なるほど、保育園って園児だけを気にすればよいというものでもないんですね。
特にコンサートはステージとグランドピアノがあって本格的なんですよね。


園長:ええ、建物名がハーモニーガーデンということで、もともとオープンなコンサート用に整備されているステージだそうです。音響もいいですよ。商店が並んでいたところが震災後にマンションになったということで、再び町の人が集う場所にしたいという願いを感じています。
つてがあって、演者も一流です。無料でこれだけ間近で聞けるのは本当に、贅沢ですよ。子どもたちには、ぜひ人生の最良の時間を味わってほしいんです。
成長していく中で困難なことはいくらでもあるでしょうが、
美しいものに触れた記憶は、きっと何かの助けになる。そう願っています。
保護者:子どもたちもコンサートの練習を?運動とか造形とか、いろいろ教育内容に特色を掲げる園もありますけど、ここは音楽なんですか?
園長:いえ、まったく。
保護者:え、これだけコンサートを推していて?
園長:コンサートは、楽しんでもらえれば十分です。
生きていくのに必要な力って、遊んだり生活したりしていれば自然と身についていくと思うんです。でも、社会が複雑になって、子どもが入るわけにはいかない場所が増えている。そうすると子どもが色々な遊びや生活体験をする機会が減っていく。保育園や幼稚園はその代りの場所ですね。だけど、どうしても大人に用意される環境は恣意的になってしまう。そんな中で、「うちの園はこれが特色です!」とやってしまうと、ますます偏ってしまうと思うんです。
保護者:うーん、そういうもんですか?
園長:こういう風に育ってほしいな、と大人は思い、働きかける。子どもはそれを受け取ったり受け取らなかったり、別の受け取り方をしたりする。必ずしも意図した通りではないその反応を受け入れて、大人はまた働きかける。
子ども自身の思いのままにのびのびと育ってほしいという願いと、こんな風に育ってほしいという願い、その間で揺れ動く中に保育があるのかな、って私は考えています。
そんな中で園の特徴は「音楽!」と決めてしまうと、大人の意図とは別の部分での子どもの育ちを、どうしても見落としてしまう。人は、期待と違うことに怒りを感じやすいものだから、なるべく大仰なものは掲げたくないんです。保育者の「歌うって楽しいよ、やってみようよ」「こんなことを一緒に楽しみたいな」という気持ちから、始めたいですね。
保護者:では、何かこの園ならではのことってありますか?
園長:私たちの園で必修科目があるとしたら、「子どもを見る」ということでしょうか。
保護者:えーっと、それはむしろ、仕事ではないですか?
園長:いや、意外と難しいですよ。まだ言葉が出ない子も視線やしぐさで「私を見て」っていう微かなメッセージを送っているんです。それを前後の文脈、これをしようとして、でもできなくて、やっぱりこうしてみたら、できちゃった!みたいな子どものワクワク感やがっかり感、どうだ!という気持ちも含めて受け取り、視線やほほえみ、あるいは言葉で応えて一緒に喜ぶ。これを一人一人についてやるんです。
蟻の目と鷹の目って聞いたことはありますか?蟻のように地面に足をつけて一人の子の思いを受け止めつつ、鷹のように俯瞰して集団としての子どもたちを見守る。これは経験しないとすぐには身につかないです。
保護者:見られることで子どもはうれしいんですね!
園長:おっしゃる通りです。子どもに「みてみて!」って呼ばれることがよくありますよね。子どもって「見られていないことはなかったことになってしまう」んです。生後数か月の赤ちゃんがうつ伏せから首を上げる。それで大好きな大人と目を合わせることができる。それがうれしいから一生懸命首を上げる。
誰もいないところでストイックに首を上げる運動を繰り返す赤ちゃんはいませんから。
保護者:それは確かに不気味かも(笑)


どうしたら「子どもを見る」ことができるようになりますか?
園長:私たちも模索中ですが、一つの試みが園内で保育実践シミュレーションという園内研修です。詳細は秘密ですが(笑)、子どもたちの様子を観察しながら、そこに保育経験豊富な理事の視点を補助線として引くというようなものです。あとは何よりも、目の前の子どもをかわいいと思いつつ、一人の人間として尊重し興味をもつゆとりでしょうか。うちの保育園の理念は、
1
仲間といる楽しさを伝え、仲間がいることを喜びあう
2
子どもの様子を出発点としそれぞれの育ちを見守るとともに、
職員も育ちあい学びあう
3
子どもと子どものいる家庭が、広く地域や社会と関わりながら
育つことができるよう支援する
の3つです。このうち、最も力を入れているのが1つ目です。子どもの様子を見る力をつけることを推奨し、機会を設ける一方で、職員の発案や思いを尊重し、自分で考えるようにしてもらっています。どの職員も子どもを可愛がってくれているので、安心して任せられます。
私も職員から多くを学べますし、職員も子どもから色々学んでくれているようです。これからの成長に期待しています。
うちの園ってここがすごい!というところはありますか?
保護者:他に深江けやきの木小規模保育園のいいところってなんですか?
園長:地味ですが持ち物が少ないというところかな。布団やタオル類、使用済みオムツまで保護者が持込み持帰りする園もありますよね。
うちは一切ないです。着替えとオムツ、手拭き用の紐付きタオルは持参いただいていますが、それだけです。聞くところによると、持ち物が多い理由は保護者の育児力向上を狙ってのことらしいのですが、意味ないと思うんです。
生活していれば洗濯物が出る、そんなことは着替えや家での洗濯物で十分わかりますし、現代社会は上手に周りの力を借りることで成り立っていると思うので、布団はリース業者の力をタオルの洗濯は園の力を借りたってよいと思うんです。その分、子どもとゆとりある時間を過ごせればいいな、と。近くの保育園に通えるとは限らない今、自転車で布団を抱えて移動するとか、本当に危険ですし。

設立のきっかけは?
保護者:そもそもなんで保育園を作ろうと思ったんですか?
園長:私自身、0歳から保育園に子どもを預けて働いていたんです。というか、いるんです(2018年3月現在)。産休・育休と経て仕事を再開して、つくづく思ったのは、子どもは一人で育てるものじゃないなあということでした。
それまでって、一人で何でもできることが成長で、自立なんだと考えていたところがあったんです。なので周りの力を借りた方が、ずっと気持ちよく楽しく暮らせるというのは、子どもができて初めて知った感覚でした。保護者同士で知り合ったり、保育園の先生に助けられたり、役所からも色々な支援メニューがあって、頼っていいんだな、と。
私がやらなきゃ!と思っていた時期は、やはりしんどかったです。でも、保育園を中心に知り合いが増え、なんとなく自分たちがみんなから応援されているような気持になって、安心して子育てができるようになりました。そんな中、社会に出たころよりは誰かのために働く力がついた、その力を何に使おうかな、って考えたんです。それで、今度は自分が子育て中の家族を応援出来たらな、と思うようになりました。
最後に
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

保護者:いろいろとありがとうございます。他に保護者に向けてメッセージはありますか?
園長:今、大学から教育の在り方を変えよう、探求型の教育を、といった動きが加速していますね。自分で興味あることを見つけ、色々な方法で考察を深める。仲間と協力して周囲に影響を与えていく。そんな力が重視されるようになってきています。
それに関連して非認知能力という、読み書きそろばんや知識とは違う、学びの土台になる力が注目されています。それって、実は保育の考え方に近いんです。保育では、教え込むのではなく環境から生活から遊びを通して学ぶことを重視してきました。それから、「この世界は楽しいところだ」「ここで生きていくための色々なことを学びたい」「自分にはその価値がある」といった気持ちを育むべく、愛情を注ぎ、見守り、気持ちに応えることも重視してきました。友達の存在を知り、取り合ったりぶつかったりといった葛藤を経験したり、一緒にいることで楽しいなという気持ちを味わったりしてきました。
子どもたちが最初に出会う社会として、幸せな場所でありたいと思っています。
こちらこそ、ありがとうございました。
